そこそこ持っている本に服にCDに、音楽データ。

ゲーム機もソフトも、いつもみたいに私の時間をつぶしてはくれなかった。

部屋のベッドに仰向けになって、なんだか空っぽだと思った。


何ひとつ、私だけのものなんてない。

本だって服だって、同じものを持ってる人が山ほどいる。


写真は?

写真はどうだろう。

いやあれも、ただのデータだ。

いくらでもコピーできて、気に入らなければ消して。

私だけのものなんて気、全然しない。


伸二さん、笑ってごめんなさい。

あなたの名前は、確かに唯一です。

ああ、それを言ったら、私の名前は変わってるから、フルネームならもしかして、自分だけのものかも。

目立つし男みたいだし、大嫌いだったこの名前。

こんなものしか今は、手元に残らない。



「あーちゃん、帰ったのお?」

「起きた? 今ごはんつくるよ」

「いらない…食欲ない」



開けっぱなしのドアの向こうを、ふらふらとおぼつかない足取りの影が通りすぎた。

危なっかしいなと思い、ベッドを飛びおりて追いかける。

さっき綺麗にしたばかりのダイニングにウイスキーの中身を点々とこぼしながら、母親はご機嫌に歌っていた。



「あーちゃん、今日も可愛いわねえ、私にそっくり」

「はいはい、何か食べたほうがいいよ、せめて牛乳かお豆腐くらい、食べない?」

「湯豆腐!」



突然ひらめいたように、大げさに両手を広げて叫ぶと、楽しくなってしまったらしく、キャハハと笑う。

その自制心を感じさせない、唐突な大声は、母のゆらゆらと安定しない心を如実に表していた。


こういうのもキッチンドランカーっていうのかな?

家中ふらふらしてるから、別にキッチンにばかりいるわけじゃないんだけど。