どくんと心臓が鳴った。

息ができないのを悟られないように、懸命に自転車をこいで社の裏まで一気に走り抜けた。


林太郎、帰るってどこによ。

あんた、どっちの人間よ。


林太郎のお母さんは、林太郎と一緒に村に帰っては、こなかった。

今でも遠くの実家で暮らし、何かにつけ林太郎も、はるばる会いに行ったりしてる。

奴のあの言葉がいつまでたっても戻らないのは、そのせいだと私は思ってる。


優しくて綺麗で、大好きなおばさんだった。

ずっと会ってない、私だって会いたい。


でもね、林太郎。

私に夏休みは、来ないんだ。



「あれは“未練”か?」

「わあっ!」



突然荷台がずしりと重くなり、ハンドルをとられて激しく蛇行した。

タイヤが土の上を滑る音がする。



「脅かさないでよ、人見さん」

「その苗字は1-3というエリアナンバーの当て字だ。1が国、3が県、このあたりの同僚は全員人見だ。伸二と呼んでくれ」



さんざんよろめいた自転車が危なっかしく停止すると、荷台の重みはふっと消えた。

まだ死神は、優雅にそこに横座りしたままなのに、だ。



「なんで日本が1なんですか?」

「去年の平均寿命ランキングだ」

「…意外に俗な基準ですね」

「WHO調べだぞ?」

「データの信憑性を疑ってるわけじゃありません。もしかして、伸二も当て字ですか」



そのとおり、と偉そうに死神がうなずき、42号だ、と誇らしげに言う。