フレキシブル・ソウル

突然、林太郎がくるっと振り向いた。

えっ、と戸惑った私に、僕ならのお、といやにもったいつけて、にやりと笑う。



「あっちゃんに、大好きって言うよ」



完全に虚を突かれた。

何も言えなかった。


だんだん顔が熱くなっていく私を、林太郎はふんと一瞥して、余裕の表情で再び歩きだす。

何これ、悔しい。



「やり残してないじゃん」

「ほやね、じゃあ、あっちゃんなら?」



憎まれ口もさらりと流し、そんなことを訊いてくる。

林太郎の背中を見ながら、考えた。


あと一週間しか生きられないと言われたら。


…とりあえず受験勉強やめてみる、とか。

好きなだけ甘いもの食べる、とか。

つまらないことが浮かんでは消え、採用に至りそうなアイデアは、ひとつだけだった。


林太郎に、大好きって言うよ。


なんてね、たぶん言えないけど。



「のお、あっちゃんは?」



催促するように、林太郎が手を引っ張る。

その声が、妙に自信に溢れているのが頭に来る。

期待になんて応えてやらないよ、バカ。



灼熱の空。

果てのない青。


肌が沸騰しそうな季節。


吸いこむ空気まで熱を帯びて、ということは吐く息も熱いんだろうななんて考えつつ。

せっかくならめいっぱい感じ悪く響くよう、慎重に言った。





「教えない」





林太郎が、楽しげに笑った。

絡まる指が、頼もしかった。








私も笑った。



どこか遠くで、カラスが鳴いていた。