「お父さんも、よく来てくれてたんよ、お弁当持って」

「え、村長ってサッカー好きなの」

「僕が始めたのは、お父さんの影響やよ、本人もずっとやってて、でも家が厳しくて、高校でやめさせられたんやって」



へえ、全然知らなかった。

あの豪放親父にも、いろいろあったんだ。


帰ろっさ、と林太郎が手を出した。

載せた手を、きゅっと握ってくれる。

6歳の頃みたいに。



「あっちゃん、明日帰らんでも、お盆休みの間ずっと、うちにいたらいいのに」

「でも、お母さんがさみしがるしさ」

「ほやで、おばさんも呼ぶんやよ」

「その手があった!」



思わず大きな声を出した私を、林太郎がにこにこと見た。

校門を抜けると、ようやくあたりの縮尺が正常になったような感覚がする。


空は澄みきって青く、少しだけ海の匂い。


村長の亡くなった日も、こんなふうに快晴だった。

彼の座は、今なお空席。


さっきの同僚って人も、いい天気の日に逝けたんだといい。

誰だって、最後に見る景色は、綺麗なほうが嬉しいに決まってる。



我慢比べでも始めたみたいに、蝉が一斉に鳴きはじめた。

耳を塞ぎたくなりながらも、夏はこれがないと、と思う。



「知ってた? 蝉の寿命って、7日じゃないんだって」

「地上に出てからも、一ヶ月くらい生きるって話やろ」

「だいぶ違うよね」

「どっちにしても短いが」

「かわいそうだと思う?」

「知らんのやったら、教えてあげたいと思う」

「なんで?」

「やり残したこととかあったら、気の毒やんか」



蝉にか。



「たとえば」

「いっぺん網戸にとまってみたかったわ、とか」



大笑いした。

じゃあさ、と広げてみたくなる。



「林太郎なら、あと7日って言われたら、何する?」

「ほう来ると思ったわ」