林太郎はいわゆる幼なじみだ。

ていうか狭い村だから、近所の子みんな幼なじみみたいなもので、智弥子も今は隣町に引っ越してしまったけど、同じだ。

というわけでごくごく小さい頃は、しょっちゅう一緒に遊んでた。

小柄で華奢で病気がちだった林太郎は、私のあとを必死でくっついてまわっては怪我をしたり熱を出したり、可愛かった。


ふと横を見ると、死神が難しい顔をして、じろじろと林太郎を見ている。

おおかた林太郎の言葉がデータベースにないとか、キャッシュがなくてすぐに出てこないとかそんなとこだろう。

林太郎は当然、視線どころか死神そのものにも気づかず、むっと口を閉じたまま、自転車に手を置いている。

少し曇ったその顔は、いつも感心するくらい純和風で、短く切られた髪は、さわるとびっくりするほど柔らかいのを私は知ってる。


小学校に上がる前、こいつはなんでかお母さんと実家で暮らすことになり、当時は果てしなく遠く思えた、西の土地へ引っ越していった。

中学に上がる頃に戻ってきて、その時にはもう、こんな喋りかたになってた。


誰だこいつと思った。

背も伸びて。

声も低くなって。

よくわからない言葉喋って。

骨とか筋肉とか、普通に男の子で。

地元のサッカークラブとか入っちゃって。



「なんかあっちゃん、ちょっと久しぶりやね」



なのにあっちゃんとか、そんなとこだけ昔のまんまで。

気の弱そうな微笑みとかも、変わってなくて。



「あんたが毎日遅いからでしょ」

「最近は、ほうでもないで。僕んとこ、試験やったで」



あっそ、と自転車にまたがり、その場を去ろうとした。

林太郎の前だと、なんでか憎まれ口ばかり出てくるから、そうなる前に逃げたかったのだ。

なんせ私は、あと一週間ほどでいなくなるわけで。

それなのにわざわざ林太郎を不快にさせたところで、申し訳ないような気がするわけで。

ドリンクのカップをカゴにほうりこみ、境内の奥から抜けようとペダルを踏むと、あっちゃん、と呼びかけられた。



「母さんが会いたがってるで、夏休み、どこも行かんのなら、一緒にあっち、帰らん?」