「電車、迷わんかった?」

「同じこと林太郎にも言われたけど、平気だって」

「林太のぉ、あっちゃんまだやろか、道迷って困ってないやろかって、ずうっと心配してたんよ」



ころころ笑うおばさんは、すっかりこっちの人だ。

いや、もともとここが故郷なんだから、当たり前なのか。



「ほんと、無事でよかったわあ、なんかあったら、よりちゃんに顔向けできんもんね、あっ、ほやわ、電話しとこ」

「ちょっと休んだら、そのへん歩こ、案内してあげるで」

「うん」



朝早く家を出て、何時間も電車に揺られて、何度も乗り継いで、正直そこそこくたびれていた。

けどいかにも気持ちよさそうなこの港町を、早く歩いてみたくもあった。


家は自然に片づいていて、ふたりで住むのにちょうどいい大きさだった。

広い庭から、優しい風が入る。



「ユッコちゃん、いるんけのぉ」



勝手口のほうから、男の人の声がした。



「アオリイカのいいの入ったで、持ってきたざぁ」

「わあ、ありがと、ほこに置いといとっけ」



ん、とその人が家の中に入ってくると、廊下を挟んでリビングにいた私と、柱越しに目が合った。

日に焼けた顔が、恥ずかしそうに笑う。



「見ない顔やのお、どこの子やの?」

「林太の幼なじみやざぁ、かわいいやろ」



男の人は慣れたふうに勝手口に腰を下ろし、おばさんから冷たいお茶を受けとった。



「あっちゃん、そろそろ行こっせ」

「えっ、うん」



林太郎の急な誘いに、慌てて残りのお茶を飲み干して、追いかけた。

こういう時に限って、サンダルのストラップが留まらない。

出たところで、林太郎はポケットに手を入れて待っていた。