フレキシブル・ソウル



「あっちゃん!」



びくっと身体を震わせて、私は覚醒した。

喉を焼く、焦げた空気と煙った夜空。

慌ただしい足音、土の匂い。


ぼんやりと見える、林太郎の顔。


湖畔のなだらかな土手に、私は仰向けになっている。

周りにも同じように、寝転がっている人が見える。

信じられないくらい手足が重く、あちこち痛い。



「あっちゃん!」

「林…」



咳きこんで、声にならなかった。

林太郎が何か濡れたもので、顔を拭いてくれる。

ひりひりする頬に、それはとても気持ちよかった。



「あっちゃん、泣いてるん、どっか痛い?」



泣いてるのは自分のほうでしょ、バカ。

でもよく見えないし、とにかく目が痛くて、開いているだけでつらい。

涙はそのせい。



「痛いんやね、もう大丈夫やよ、僕がいるで、大丈夫やよ」



だからさ、あんたがいると、なんで大丈夫なわけ。

確かに、いないよりはいいかもしれないけどさ。


かすむ視界に、懐かしい誰かの姿を見た気がした。

記憶が波のようにやってきて、あと少しで岸辺というところで、引いてしまう。

かろうじてひとすくいすると、ぱっと頭が晴れた。


あれは、伸二さん、だ。


彼は私と林太郎を見おろして、満足そうにうなずくと、ふっと消えた。

ああ、ねえどうか。

彼らの魂も、リサイクルの対象でありますように。



「あっちゃん、泣かんといて」



そうだ、伸二さんにも、サンクスノベルズを読ませてあげればよかった。

あれは村長の、懺悔だ。

トワに贈った、感謝と謝罪の言葉たちだ。

ただ、遅すぎたけれど。


あっちゃん、と涙をこぼす林太郎の頬に、手を伸ばした。

その手を握って、林太郎はまた泣いた。


私、あんたに言いたいことがあって、戻ってきたの。

ええと、どこからだか、忘れちゃったけど。


でも声が出ないや。

ごめんなさい、あとでもいいかな、伸二さん。



伸二さん…





…って、誰だっけ──…