「どうしろって言うんですか」

「彼に会いたいなら、そう言えばいい」

「簡単に言わないで」

「簡単になんて言ってない」



ふいに目の前に彼が立ったので、視界がふさがれた。

見あげると、彼は笑っていなかった。



「心に問え、彼に会いたいと願うか?」

「そりゃ…」

「戻りたいと願うか?」



戻るっ、て。

それ、どういう意味で言ってますか。



「願うか?」



いつの間にか両手をとられて、私は彼と向かいあったまま、答えを探した。

明滅する光が、気を急かす。


ふわっとあたりの空気が熱を帯びて、恐ろしいほど赤い炎が視界を埋め尽くした。

あっちゃん、と悲痛な声がした。

火の勢いが強すぎて、姿は見えない。

愚かにも、まだ私を探している林太郎。


何も言わずに引っ越していった時、私は置いていかれた腹立ちと悲しさで、こっそり泣いた。

なのにあいつは何事もなかったような顔で、中学校の入学式に現れ「あっちゃん、会いたかった」なんてはにかんでみせた。


子供だった私は、林太郎を許すことができず、無視した。

なのに林太郎は、顔を合わせるたびにこにこと話しかけてきて、私をみじめな気持ちにした。



『あんたがいないほうが、気が楽だった』

『ほう言わんといてよ、ここも僕の家やが、いさせて』



そんなのがたぶん、再会して最初の会話。

ほんと人がよくて、バカで、育ちがよくて。


私なんかより、ずっとずっと大人だった。





「戻りたいです…」





ようやく正直になれたら、涙が出た。

伸二さんは私の両手をとったまま、にっこり笑い。

次第にその笑みは、不敵な、何か重大なことを企んでいるような、そんな表情に変化した。



「承知した」