「減ってませんが」

「俺たちがここの食物を摂取できるわけないじゃないか」

「でも、甘すぎるって」

「"体験"することはできるんだ」



わかるようなわからないような。


土埃が木漏れ日にきらめく境内の中は、予想どおりひんやりと涼しかった。

日光を遮る木々のせいもあるだろうけれど、やっぱりこういう場所は、暑さを忘れさせるような、特有の空気が流れていると思う。

と考えて、はっとした。



「俺たちを"神"と呼ぶのはこの国くらいだ。実際はただの労働者だから、別にこういう場所もなんともない」

「よく考えてることがわかりましたね」

「十字架を向けられたり、念仏を唱えられたりは、日常茶飯事だからな」



神聖なものに触れると頭がキーンとするとか、いきなり苦しみはじめるとか、そういうのもちょっと期待したんだけど。

死神はどこ吹く風で、木の上のカラスに威嚇されている。



「カラスとは折りあいが悪いんですか」

「何ぶつぶつ言ってるんやし」



突然の声に、ドリンクを落としそうになった。

はっと振り返ると、同じく自転車を押しながら、不思議そうに眉をひそめている男の子の姿があった。



「なんでチャリ乗らんの?」

「あ、あんたこそ」



あせりのあまり、声が必要以上にきつくなった。

弥栄林太郎(やさかりんたろう)は、ちょっと傷ついたように言葉を切る。

お坊ちゃん高校の、真っ白なシャツと紺のパンツがきりりと爽やかで、いつもならイラっと来るところなんだけど、今日はなんだか、そうでもなかった。



「ついて来たの?」

「だってひとりやのにずっと押してるで、なんか変やったで」

「乗るよ、乗る乗る」

「何怒ってるん」

「怒ってないよ!」

「どう見たって怒ってるが!」



じゃあ怒ってるってことでいいです!

ああもう、結局こうだ。