「伸二さんが言ったんでしょう」

「俺が?」

「私の父親は村長だって」

「そのとおりだ」

「村長ってのは、林太郎のお父さんですよ」

「なんの話をしている」



…私が悪いんだろうか。

何を言われているのか、さっぱり理解できない。



「なんの話をすればいいんです?」

「血の話なら」

「血の話をすると、どうなるんです」

「村長は、あの少年の父親ではない」



天地がひっくり返るほどの、と言うけれど。

実際そういう感覚ってあるんだと思った。

心底驚くと、立っていることすら忘れるものなのだ。



「…じゃ、林太郎の父親は、誰なんです」

「母親の友人だ、いわゆる浮気というものの結果だ」



けろりとそう教えてくれる伸二さんを見ていたら、どこにぶつけたらいいのかわからない怒りがふつふつと沸いてきた。


──早く言ってよ!!


伸二さんもテンも、急に黙った私を不思議そうに見ている。

やっぱり彼らは、人間じゃないんだと痛感した。


あんなに気を揉む必要、なかったんじゃないか。

無理に距離を置かなくても、よかったんじゃないか。


つないだ手を見おろすと、青白いような黄色いような光が、パチパチと小さな火花を飛ばしている。

その様子は、もう無駄だよ、と伝えているように見えた。



「さあ、どうする?」

「どうするも何もないですよ」



いかにも他人事な伸二さんの投げかけに、かっとなった。

まったく、死神ときたら。



「戻るわけないでしょう。言いたいこと言って、置き去りにしてこいって言うんですか、それで気が済むとでも?」

「やってみなきゃわからない」

「わかりますよ、後悔するに決まってます、林太郎だって、よけいつらくなるだけです」

「やってみなきゃわからない」



伸二さんは、落ち着き払って首を振る。

泣きたくなった。