「ようやく思い出したか」

「爽快な気分だ」



うなずいて、にこりと笑うと、預けっぱなしだった私の手を、ぐっと握り直した。



「行けるか?」

「伸二さんが犯した禁忌って、なんだったんですか」

「“時”を蹴散らしたんだよ、こいつは」



親指で差されるという無礼に、伸二さんが鼻を鳴らして応える。



「ジジイの寿命を、勝手に延ばしちまったんだよ、じわじわと身体を蝕まれて弱り、それでも死ねないように」

「そんなこと、できるものなんですか」

「こいつだからできたんだって、化け物だっつったろ、枷とリミッターつけて、時を呼び戻すのに、エリートが総出だったんだぜ」



死神に化け物も何もなあ、と思いながら、まぶしいほどの存在感を放つ伸二さんを見た。

みなぎる自信と、けた外れのパワーが彩る威厳には、無条件についていきたくなる何かがある。

けれど優しい微笑みは、やっぱり伸二さんで、この人と一緒なら、どこへ行くのも怖くないと思えた。


最後の最後に、これだけの安心感と、先を見たいという好奇心をくれる、この存在こそが。

最上級の死神の証なんだと、私にもわかった。


黒い瞳が、じっと私を見た。



「今の俺なら、わずかな時間であれば、戻してやれる」



一瞬、心が揺らぐ。



「…いいです」

「悔やまないか」

「いいんです」



あっちゃんは? という問いかけが、よみがえった。

いいんだ。

言えなかった言葉は、言わなくてよかった言葉。



「林太郎を縛るだけですし」

「縛るのが悪いとは、限らない」

「いいんです、どのみち、兄妹なんだから」

「そうだったのか」



新事実だとでもいうように目を見開いた伸二さんを、思わずまじまじと見返した。

枷とリミッターをぶっ壊した後遺症で、記憶が抜けちゃったんだろうか。