──飢える姿を見るのは、楽しかったか



間断なく響いていた、耳鳴りのような音が、激しくなった。

伸二さんの感情に呼応するように。



──ならば楽しませてやろう、永遠に



低く響く声は、まさに死神と呼ぶにふさわしい、負の威厳をたたえている。





──悔やめ、人間





吹きすさぶ光の奔流が、ひときわ勢いを増した。

片腕で顔をかばって、それに耐える。

浴衣の袂が、顔を打った。


もう一方の手は、伸二さんと握りあっているはずなんだけど、手首から先の感覚がない。

まるでどこか異次元につながる穴に、手を入れてしまったみたいに。



喉の奥で笑う声を聞いた時は、空耳だと思った。

気づくと周囲は、静かな白い空間に戻っていて、笑っているのは、目の前の伸二さんだった。



「…ふ、はは」

「伸二、さん…?」

「ははは!」



私の手を握ったまま、喉を反らして笑う。

黒髪に黒い瞳、Tシャツとジーンズというその姿は、この10日間ほど、嫌になるくらい見てきたものなのに。

それをとりまく、空気というのか、存在感というのか、そんなものが明らかに、別の何かに変化していた。

つないだ手が、ひとりでに震える。

本能が告げる、圧倒的な強者のオーラ。



「てめえ、加減を覚えろや」



その声にはっとすると、片腕を根元から失ったテンがいた。



「どうしたの、それ」

「こいつに持ってかれたんだよ、どうにかしろ、クソ」

「あとで復元してやる」



めんどくさそうに言う伸二さんの、髪と瞳が、虹色にきらめきはじめた。

表面を水が流れるように、次々と色が変化する。

以前見た時とは比べものにならない輝き。


これが、全開の伸二さんか。