伸二さんに抱えられたトワは痩せ細り、今にも消えてしまいそうに透けている。



『言ってやってくれ、今からでも』

『野暮な奴だな、そんな情け、かえって無礼だろうが』



口の端を上げる村長に、伸二さんが更に噛みつこうとしたのを、トワが片手をあげて、弱々しく制した。

いいよ、とかすかな声で言う。

気づかわしげに腕の中を見る伸二さんに、にこりと笑って、その笑みをベッドにも向け。



『あんたの勝ちだよ』



クソオヤジ、と楽しそうな響きを残して、消えた。

しん、と静まり返った病室に、やがて響いたのは、伸二さんの慟哭か、怒りの咆哮か。


すべてをなぎ倒しそうな爆風の中、彼が村長を指さして放った言葉は、聞きとれなかった。

ただ村長は不敵に笑い、そのあとは──



「伸二さん!」



苦しげに喘いで崩れ落ちた伸二さんを、とっさに抱きとめたら、静電気のものすごいのみたいな衝撃が来た。

危うく彼を落としそうになり、私のほうがしがみつくようにして支える。

その身体は、お湯でも沸かせそうなほど熱かった。



「伸二さん」

「おい、てめえのほうが参ってどうするよ、仕事だぜ、この娘を送ってやるんだろが!」



さんざん煽っておきながらテンは勝手なことを言い、伸二さんの襟首をつかんで、私から引きはがす。

ぼんやりと目を開けた伸二さんは、確かに限界に見えた。

こんなんで私を送る仕事なんてしたら、伸二さんまでトワみたいになってしまうんじゃないかと、怖くなった。

でも私のほうも限界に近いらしく、身体の周りの明滅が、いよいよ激しくなっている。


伸二さんが私を見た。

テンの肩を借りたまま、手を差し出してくる。

とっさに右手を載せた。


爆発が起こった。


何か、ガラスのようなものが割れる音がした。

吹き飛ばされそうな風と、閃光。



──ただ一言

──それだけでよかったのに、なぜ言ってやらなかった



怒りに震える、伸二さんの声。