どこか、とても見覚えのある場所で、ふたりは話していた。

ゆらゆら揺れて定まらない景色の中、ああ、とようやく思い当たる。

ここは、山王さまのいる山だ。

鉄塔と鉄塔をつなぐ無数の電線のひとつに、彼らは立っている。



『このままでは、お前は消えてしまう』

『それならそれも、定めなんだ』

『トワ』

『皮肉、せっかく今、その名前なのに』



微笑みながらもトワは、ふらりと風にあおられて揺れた。



──俺は言わんぞ?



突然、相手を小馬鹿にするような声が響いた。

気がつくと、まったく違う場所にいた。

ここも見覚えがある。



『意固地なじいさんだなあ』

『死神に感謝しろってのが無理な話だ』

『僕らがあんたの命を奪うわけじゃないんだって、何度言ったらわかるのさ』



病室のベッドの脇で、トワは、ふうと息をついた。

誤解と知りながらも、正す気はないといった体で、村長は悠然と笑んで、本を読んでいる。

私が会った時より肉が残っていて、まだ元気そうだ。



『聞きたいなあ、ぜひあんたの口から』

『だから言わないんだ』

『どうしてそんな、クソオヤジなの?』

『楽しいからだよ、坊主』



最低、とこぼしながらも、トワはどこかこらえきれないように、にこにこしていた。

村長はその存在を無視し、勝手に寝はじめた。



そんなやりとりを、ぼんやりと見ていた私の脳裏に、ひらめくものがあった。

伸二さんにはめられている“枷”とは、もしかして。

死神の“エサ”って、もしかして。



あたりがほわほわと光っているのに気がついた。

視界が元に戻り、目の前にはテンと、伸二さんがいる。


伸二さんが、私を見て、はっと目を見開いた。

テンの指から逃れ、ふらつきながらこちらに来る。

同時に、私の頭の中の異物感も消えた。