突然のことに、伸二さんも手を出せず、呆然としていた。



「…“禁忌”か!」

「そーだよ、お前の“枷”に触れるのは、今や絶大なタブーだ」



忌々しげに伸二さんをにらむ顔は、青ざめて歪んでいる。

畜生、と振り絞るように吠えて、テンが彼に飛びかかった。



「思い出せ、伸二」



長い爪が額に立てられたかと思うと、ずぶりとそのままめりこみ、私は思わず、ひっと声をのみこんだ。

伸二さんが喉をそらして、苦しげに眉をひそめる。



「オレは教えてやれない、お前が自力で思い出すしかねえ」

「…あとに、しろ」

「悔しくねえのか、勝手に頭いじられて、大事な奴のこと忘れて!」



伸二さんの呻きと同時に、私も悲鳴をあげた。

脳内を直にかき回されるような、激しい異物感と痛みに耐えかねて、うずくまる。

鼻に水が入った時の痛みが、数十倍になったみたいな感じ。



「人間のほうが反応したか、ちょうどいい」

「あ!」



頭の中の一点に、明確に何かが注がれた。



「絶対に気絶すんなよ、伸二の代わりに“見ろ”!」

「またそんな無茶…」



なんでここに来て、こんな苦痛。

伸二さんのためならと思うものの、身体のほうは防衛本能で、意識をシャットダウンしようとする。

この痛みは気のせい、気のせい、と言い聞かせながら震えていると、ふいに、ふわっと視界が開けた。



…を願い出るべきだ、と知った声が言った。

伸二さんだ。



『でもなんか悔しいし、そもそも配置替えって、ヒトが望まないと』

『希望する、と俺が言わせてやる』

『そんなの反則だ』



ころころと笑うのは、トワだ。

笑い声とは裏腹に、その面差しはげっそりとやつれ、生気はなく、ひと回り小さくなったように見える。