「まじめに答えてくれる? 僕、あっちゃんが好きやよ、ずうっとあっちゃんだけ、好きや」



発電機のモーター音にかき消されないよう、少し身を屈めて、顔を寄せて話す林太郎の、必死さが愛しかった。

いつだって一生懸命で、まっすぐな林太郎。



「あっちゃんは…?」



ああでも、ごめんね林太郎。

こんなふうに、喜ばせるだけ喜ばせて、消えるなんて私は最低の奴だね。

だけどどこかで、こんなふうに言える日を、きっと、ずっと待っていた。

林太郎の前で、素直になれる日を。


痛いほど握られた手を、軽く握り返した。

その時、視界の端で、真っ白な飛沫が上がった。



誰もが、そういう演出だと思ったに違いなかった。

湖面すれすれで、狂ったように次々と弾ける花火。


やがて、ぽっとオレンジの炎が現れ、湖畔に広がるまで、そう時間はかからなかった。

少しの間、沈黙した観客たちは、やがて事態に気がついた。


悲鳴をあげて、逃げまどう人の群れの中、私の心は、静かに冴えていた。

あれだ。



「あっちゃん、何してるん、僕らも逃げよ」



林太郎の手を、ゆっくりと離して、後ずさる。



「ごめん、先行ってて」

「何言ってるんや」

「いいから、行ってて」

「あっちゃん」



あっちゃん、という声に耳を塞いで、走った。

燃え盛る炎から逃げてくる人々に、逆らうように。



「よく頑張ったな、あと少しだ」

「伸二さん、お願い」

「聞こう」

「林太郎に、見せないで、私の、私の──…」



わかった、とすぐ横を滑るように飛びながら、死神がうなずいた。

こんな時まで、下駄の鼻緒で擦れた足は、律儀に痛むのだ。


時折、色鮮やかに誘爆しながら広がる炎が、尋常でない熱量と共に近づいてきた。

湖面に浮かんでいたはずの足場は、激しい火花に包まれて、見えない。


綺麗だなあ、と見とれながら走った。

光の欠片が、頬を焼く。

消防車のうなり声が、遠くに聞こえる。



突然、あたりがかっと真っ白に弾けとんだかと思うと。

猛烈な熱が、足元から私を包むのが、わかった。