「親の前でああいうこと、言わないでよね」

「ちっちゃい頃かってつないでたで、別にいいが」



表に出ると、林太郎は手のひらを上に向け、差し出して待っていた。

それを叩いて払いのけたつもりが、絶妙なタイミングで握りこまれてしまう。



「昔とは違うって言ったり、同じだからいいって言ったり、ずるいんじゃないの」

「同じなんて言ってえん」



言った、と噛みつくと、先を行く林太郎が、くるっと振り向いた。



「おばさんは気にせんよって言っただけや。僕が6歳の時と、おんなじ気持ちでつないでるって、ほんとに思う?」



…そんな赤い顔して、怒った声、出すなよ。

どうしたらいいか、わからなくなるじゃん。


湖までは、歩いて20分と少し。

その間、きっと私たちは、一言も交わさないだろう。


林太郎の背中を見ながら、そんな予感がした。

きつくつかまれた手が、熱くて困った。





「さっきの、弥栄だよね?」

「やばい、かっこよくなってる」

「誰と来てるんだろ、あとで会ったら声かけようよ」

「高校の友達だといいなあ、あそこの男の子なんて、なかなか会えないし」



屋台の立ち並ぶ湖畔の片隅にある、誰だかよくわからない銅像の陰に身を隠して、そんな会話を聞いた。

中学校の同級生だ。

別の高校に行った女の子数人で、きらきらした浴衣で揃えている。



「何こそこそしてるんやし」



振り向くと林太郎が、氷のたっぷり入ったドリンクを手に、立っていた。



「はい、足、大丈夫?」

「ん、休んだら楽になった」

「気がつかんくてごめんの、ゆっくり歩こ」