私の足元に膝をついたまま、にこりと見あげてくる母は、きらきらと美しく、可憐だった。



「勝手に投げちゃダメだよね、お母さん、あーちゃんにふさわしい母親にならないと、ダメよね」

「そんな…」

「今までごめんね、お母さん、頑張る」



ふわふわと柔らかい声ににじむ、確固たる意志。

誇らしげに私を見る瞳。



「それで、いつか一緒に、おばあちゃんのところに行こう」



こらえた涙は、悔し涙。

この世にたったひとりの、私を産んで育ててくれた母の、こんなささやかな願いすら。

私は、叶えてあげられないのだ。





案の定、林太郎は玄関先で、目を丸くして絶句した。



「なんか言うこと、ないわけ」



居心地の悪さに、つっけんどんな声を出した私に、はっとすると。

喜んでるんだか困ってるんだかわからないような調子で、可愛い、とくり返した。



「可愛い、あっちゃん、僕、嬉しいわ、可愛い」



もう、うるさい。

うしろでお母さんが、くすくす笑ってる。



「いいから行くよ」

「手、つないでもいい?」



せめて、家を出てから言えよ!

突き飛ばすように林太郎を追い出して、いつの間にか用意されていた、丸っこい黒塗りの下駄を履いた。



「行ってきます」

「気をつけてね」



振り向いた先の母は、おかしくて仕方ないって感じに笑っていた。

もしかして万が一、これが母との、最後になるのなら。

可愛い恰好で記憶に残ることができて、よかった。


そう思った時、村長を女々しいと非難したのを、少しだけ申し訳なく感じた。