「なんだ」
「歩いてるの、久しぶりに見た気がして」
「笑うことか?」
首をひねるのが可愛くて、さらに笑うと、つられたように彼も表情を緩める。
粗いアスファルトに、サンダルの裏を溶かされそうだ。
真上からの日射しに、逃げ場はほとんどなく、足元にまとわりつくような影は黒々としていた。
ふと伸二さんの足元を確かめると、その視線に気づいたのか、ぱっと影が現れる。
「あれから何か、思い出しましたか」
「少し」
「どんなことを」
「そこまで具体的ではないんだが、どうやら俺は一度、懲戒免職にされかけている」
「懲戒免職? されると、どうなるんですか」
「消える」
当然のように言った。
「俺たちは、この職務のためにいるから、それをとりあげられたら、存在できない」
「え、消えたら、どうなるんですか」
「どうもならない」
「…魂とかは」
「さあ」
まるで頓着していないみたいに、首をかしげる。
何それ、伸二さんたち、そういうもののエキスパートなんじゃないの。
自分のことになると、知識も興味も、そんなもんなの。
「…どうして、仕事を続けられたんですか」
「それも、記憶は曖昧なんだが、どうやら、あいつが関係している」
テンか。
その苦々しい声音からは、若干の記憶が戻った今でも、二匹の仲は相容れないらしいことがわかる。
彼らとトワと、村長の謎を、最後まで追いたいけれど。
伸二さんが、よくわからないものから解放される手助けをしたいけれど。
私には致命的に、時間がない。
「煩わせて、すまない」
「いえ、心残りではありますが」
「そうか、俺は失格だ」