「あとでの、あっちゃん」



突然、胸が締めつけられるように痛んだ。

うん、となんとか手を振って、林太郎を行かせる。


陰りのない笑顔。

“あとで”会えることを、信じて疑わない、明るい別れ。


だけど私は知っている。

その“あと”がある可能性は、五分五分。


今朝、目覚めた時から、なんとなく漂う違和感。

自分の中身が、八割くらいに減ってしまったような、妙な浮遊感。


たぶん、近いんだ。

もう、ほんとに近いんだ。


その証拠になるのかわからないけれど、今日はずっと、伸二さんの存在がすぐそこにあるのを感じる。

姿は見えなくても、常にそばにいるのがわかる。


その気配が、なんとなくぴりぴりと、いつもの彼らしくないざわつきに覆われているような気がするのは。

仕事本番への緊張からなのか、はたまた、トワの夢のせいなのか。



「ご飯、何にする?」

「お母さんがやるわよ、できるまで遊んできなさい」

「きなさいったって」



窓の近くに寄りたくないくらい、表が暑いのは伝わってくるし、そもそも外で遊ぶって歳でもないし。

漫画やテレビも芸がなさすぎる、と悩んで思いついた。



「じゃあ、ちょっと出てくる」

「帽子かぶるのよ」

「冗談でしょ」



覚悟していたとおり、外は敵意を感じるほどの熱射だった。

負けるもんか、とわけのわからない奮起をしつつ、知っている人に会わなそうな道を選んで歩く。



「伸二さん、一緒に歩きませんか」



ふっと横に気配がして、死神が並んだ。

神妙な顔つきで、生真面目に左右の足を交互に出す姿に、なんだか笑ってしまう。

当然ながら、怪訝そうにされた。