不満そうというよりは悲しげに、だけどどこかあっけらかんと、トワは息をついた。

伸二さんがそれを見おろして、穏やかに言う。



『自由とは、選べることだ』



トワが見あげた。



『選択肢が用意されていることが自由なんじゃない。自由とはそれを自分の意思で選び、決めることができる状況を言うんだ』

『じゃあ、あの人は、心が自由じゃないんだ』

『罪悪感か、悔恨か。ヒトは縛られやすい』



気の毒に、とトワは、抱えた膝に、顎を載せる。

柔らかそうな髪の毛を、風がなでた。



『でもいいね、なんだか、生きてるって感じがする』

『限りある命のほうが、色が濃い』

『人間が好きなんだね?』



トワがくすくすと笑いながら、伸二さんを見た。

伸二さんは、にこりと微笑んで軽くうなずき。



『────…』



その声は、風に邪魔されて、聞きとれなかった。

そして、ふいにわかった。


これは、伸二さんの見ている夢だ。

彼も今、どこかで身体を休めながら、ゆらゆらと追憶の海を漂っている。


幸福で、鮮明な。

トワのいた記憶。



はっと覚醒した。

どくどくと耳の奥で鳴る自分の鼓動を聞きながら目を開けると、部屋の中に、ぼんやりと光るものが浮いていた。

恐ろしいものじゃないという直感があり、目をこらすと。

それは丸まって眠る、伸二さんだった。


夜が明ける直前の、独特の静寂の中、ゆっくりと回転しながら、胎児みたいに身体を丸めて、目を閉じている。

見ていたら涙が出そうだったので、起きてほしいと思った。


その時、村のどこかで鶏が鳴いた。


呼応するように、ぴくりと伸二さんが反応し、目を開ける。

ぼんやりした視点は、私を見ても、なお定まらず。


ふわふわ漂ったまま、伸二さんは首をかしげ、不思議そうに言った。



「なぜ忘れていたんだろう」



死神も、寝起きには声がかすれるんだと知って。

どうしてか、切なくなった。