ひとりは、頭のよさそうな清潔な顔立ちに、黒いスーツを着ている。

もうひとりは、ふわふわの髪の毛を風に揺らして、柔らかそうな薄手の大きなシャツをダボダボさせた、まだ少年て年頃の子。


見たことのない外見だったけれど、すぐにわかった。

あれは伸二さんと、トワだ。



『人間が多すぎる』

『増えるばかりの国だ』

『あまり、いい循環をしていないけど。ここの人たちは、それを知っているのかな』

『気づいたところで、何ができるわけでもない』



そうか、と小さいほうの人影が、さみしげに頬杖をついた。

私は、快哉を叫びたい気分だった。

智弥子、やっぱりトワは、男の子だったよ。



『なぜ自分たちが、一定の個体数を保てないのか、考えないのかな』

『医療が発達し、食に富み、安全だからだと思っている』

『それは結果論だ、他の魂を食い潰したぶんが降りかかってきてるだけなのに、なんてのんきな国なの』

『彼らは彼らなりの法則の中で、生きている』



そう、とトワは、残念そうにため息を漏らす。



『人間て、もっと賢いのかと思ってた』

『賢いさ』

『僕らみたいに、たったひとつのことしかできないんじゃなくて、もっとなんでもできるのかと思ってた』

『できるさ』



ただ、とても長い時間がかかるだけだ。

伸二さんはそう言って、優しく笑った。



ふいに景色が横に流れ、何も見えなくなった。

推進力に揺られながらも私は一点に留まり、目の前を走る風景の奔流がゆるやかになる時を待つ。



『どうしたらいいのかな』



やがて聞こえてきたのは、もの思わしげなトワの声だった。

流れ去っていた視界がふわっと開け、大木の枝にちょこんと座る少年と、それに付き添う男の人の姿が見える。

また見知らぬ容姿に変わっていたけれど、もちろん伸二さんとトワだろう。



『いろいろな考えの者がいるが、俺なら、叶えてやる』

『でも、なるべく苦しみたいなんて、どうなの』

『理由は人の数だけあり、本人すら自覚していない願いも、込められているだろう、俺たちにできるのは、実現することだけだ』

『せっかくなんでも叶えてあげるんだから、もっと自由に発想したらいいのに』