風にかき回された長めの髪を、ばさりとうしろにかきあげて、テンは大げさなため息をついた。

いや、大げさではないのかもしれない。

その顔は青ざめて、小刻みに全身を震わせていたからだ。

私の視線に気づくと、ふっと笑う。



「リミッターつけられて、あのパワーだぜ、化け物だよな」

「そのリミッターっていうのが、“枷”のこと?」

「それとは別だ、奴は今、フルパワーを出せないよう、二重に封印されてる」

「伸二さんは、できそこないなんかじゃないわけね?」

「頭をいじくられる前は、あいつに敵う奴なんていなかった、弱小者がうかつにそばに寄ろうもんなら、吸収されちまってたよ」



死神のヒエラルキーって、存在の維持と直結なのか。

人間以上に弱肉強食で、ある意味わかりやすい。



「タブーって何、って訊いたところで、教えてくれないんだろうね」

「教えてやりたいが、口にするのも禁じられてんだ、犯すなんてとんでもねえことができたのは、あいつだからだよ」

「トワと伸二さんの関係は?」



んー、と喉のあたりをかきながら、テンが上を向いた。

ごまかしているのではなく、言葉を探してるんだと、なんとなくわかる。



「トワは、伸二の弟だ」

「兄弟なの」



というより、死神に血縁があるの。

大きな声を出した私に、テンが首をひねる。



「師弟関係の、弟のほう」

「弟子でしょ、それは」

「それだ、トワは伸二の、弟子だった」

「死神って修行でもするの?」

「オレたちは、誕生した段階では真っ白なんだ、そこに仕事を教える奴がつく。しばらく一緒に仕事をしながら、教育してく」



いわゆるOJTってやつだ、と言われても、なんのことかわからない。

要するに、先輩後輩だったってことか。



「何か特別な関係だったの?」

「ここまでだ、ジジイに呼ばれた」



突然テンは、少し先の尖った耳をそばだてたかと思うと、消えてしまった。

担当している人間は、絶対に優先なんだろう。