「へへ…いいぜ、もっと怒れよ、伸二」

「気安く呼ぶな」



伸二さんの全身から、パチパチとはぜる青い光が立ちのぼっている。

光の色が、黄色くなったり青くなったりするのは、もしかしたら彼の、怒りのせいなのかもしれない。



「なぜそうまでして、担当でもない人間に関わる」

「言っただろ、お前を怒らせたいんだよ」

「それがなぜなんだと訊いている」

「ほらな、そんなことまで忘れちまってる」



下半身がまだ不完全なまま、ゆらっと陽炎みたいに壁から離れて、テンは伸二さんの顔を両手で挟み、上向かせた。



「これじゃトワの奴も、浮かばれないぜ」



伸二さんの目が、見開かれた。

テンの瞳が、満足げに細められる。



「トワが消えた時、お前はあんなに怒ったじゃねえか」

「…俺が」

「ああそうさ、怒りまくってキレて、ついには禁忌を犯したろ、オレたちが絶対に犯してはならない、タブー中のタブーを」



部屋の中が、不気味に渦巻いているように見えた。

テンの敵意と、伸二さんの動揺がつくりあげる渦。



「お前にはめられた“枷”は、その罰だ」



ようやくテンの全身が、実体となって床に降り立った。

ひょろりとした長身の彼は、伸二さんを品定めするように、顎に指をかけて、軽く持ちあげる。



「なあ、伸二」



鋭い爪の先で、伸二さんの頬をゆっくりとなでながら、テンは微笑んだ。



「痩せたんじゃねえか?」



爆風が巻き起こった。

とっさに母の身体に身を伏せてかばってから、その長い髪がそよとも動いていないことに気づく。


乾いた風は、逃げ場所を探すように、しばらく部屋の中を跳ね回って、やがてふっと消えた。

おそるおそる目を開けると、そこにはテンの姿しかない。