「あっちゃんは、ひどい」
「情けないこと言うな」
「馬鹿にすんなま!」
突然の大声に、ぎくっとした。
林太郎が、上半身を肘で支えて、きつい視線を送ってくる。
「僕は…僕は、あっちゃん好きやけど、それは好きにしたいって意味やない」
震える唇で、涙ぐみながらも毅然と私と対峙する。
全身が、私を責めていた。
「あっちゃんが、笑ってると嬉しいってことや、ほんで一緒にいたいってことやで」
「林太郎…」
「ほんとに好きにしたいんやったら、僕なんていくらでもチャンス、あるわ」
威勢のいい台詞とは裏腹に、子供みたいに手の甲で目をこすり、鼻をすする。
「馬鹿にせんといて」
吐き出された言葉が、胸をえぐった。
ごめん。
ごめん、林太郎。
「降りて」
「林太郎、あの」
「いいから、降りてや」
言うなり林太郎は、私の両脇に手を入れて、ひょいと自分の上からどけた。
あまりに軽々とだったので、私は抵抗するタイミングもなく、おとなしく動かされるままになる。
林太郎は、短く鼻をすすりながら、立ちあがった。
そのまま玄関のほうへ向かうのを、なすすべもなく見ていると、戸口でふと、振り返る。
行き場のない熱い息を、苛立たしげに吐いて。
畳に座りこんだ私を、濡れた目で、上からじっと見つめていた林太郎は、やがて、ぶつけるように言った。
「好きやよ、あっちゃん」
喧嘩腰ともとれる、押し殺した声。
自分でも、状況にそぐわない発言だと感じたのか、林太郎はめったに見せないような仏頂面で。
溜まった涙を乱暴に拭うと、不機嫌な視線をあちこちさせて、一瞬、私を見る。
すぐに、傷ついたようにまた、うつむいて。
「言っつんたわ」
不本意そうにしかめた顔で、低く吐き捨て、出ていった。