「…他に誰かと、行く話あるんや、ないよね?」
「誰かとって?」
「知らんけど」
言いにくそうに視線を下げた仕草で、わかった。
私が、他の男の子と行く可能性を、考えてるんだ。
笑いがこみあげた。
はは、と実際笑った私を、訝しげに林太郎が見た。
瀬戸際だ。
私はまさに、瀬戸際にいる。
生きるか死ぬかの、じゃない。
1時間後に、果たしてまだ生きているかどうかの、だ。
そんな私に向かって。
お祭りだとか誰と行くとか、そんな、どうでもいいこと。
どうでもいいこと。
「あっちゃん…?」
林太郎が心配そうに、のぞきこんでくる。
乾いた熱い指が、私の顔にさわった。
どしたん、と指の背で、頬を軽くこする。
「泣きそうな顔してるで」
何かが切れた。
不安だったのか、腹が立っていたのか、私は思いきり林太郎に飛びついて、そんな自分にびっくりした。
「わあっ!?」
受けとめそこねた林太郎は、間抜けな悲鳴をあげて、私もろとも床の上に転がった。
ぶつけたらしい後ろ頭をなでながら、どうしたんよ、と情けない声をあげる。
「あんた、私に言いたいこと、あるんでしょ」
「え?」
座布団の乱れた畳に、私に乗っかられるままに身体を投げ出している林太郎は、笑えるくらい無防備だった。
どんなに暑くても、家の外では膝下の見えるパンツを履かない林太郎。
夏場でも、人の家に上がる時には必ず素足を避ける林太郎。