「何」
「ほんな怒らんくてもいいが」
「安心してるんだよ」
林太郎は疑わしげに、ほうなん? と眉をひそめる。
午後になってようやく退院できたらしく、すぐにうちを訪ねてきたのだ。
「嘘だけど」
「機嫌悪いのぉ」
誰のせいだよ、と毒づくと、林太郎がしゅんとした。
「やっぱり僕のせいけ」
「別に」
「朝、ごめんの、どっか痛くせんかった?」
たたきに行儀よく立ったまま、顔をくもらせて、とんちんかんに謝る。
「上がれば?」
「いいの?」
お邪魔します、と靴を脱ぐ時、背の高い姿がかがんで、意外に長いまつげが見えた。
「今日は学校、行かんかったん?」
「なんかめんどくさくなっちゃって」
「病院来てくれたでやがの、ごめん」
「いや、行こうと思えば行けたし」
リビングの座布団に座って、私の出したアイスティを飲みながら、ほか、と林太郎がうなずいた。
「たまに、そんな日あるがの、学校行かんで得したような、なんか逃したような、不思議な気持ちになるがの」
「あんたもサボったりするんだ?」
「するよ、たまーにやけど」
恥ずかしそうに笑う。
明るいブルーの、夏らしいシャツ。
平日の昼下がり、こんな時間に届いてくる村の音は、やけに静かでよそよそしい。
窓の外の、陽射しが強すぎて白く飛んだ空を眺めていたら、林太郎の視線に気づいた。
「明日の予定、決まった?」