ずっと、ずっと不思議だった。
私の姉は、正直言えば勉強が苦手な人だった。
ものを覚えるのが特に苦手だったらしく、掛け算はそばにいた私のほうが先に覚えてしまうくらい、勉強だけはできなかった。
持ち帰ってきていたテストはいつも赤点ギリギリで、高校もギリギリ入れるところを必死に探したのだと昔言っていた。
ねえ、私の点数はどこがダメなの? お姉ちゃんはもっと低い点数でも、なにも言わなかったのに、どうして私はだめなの? 机に向かってる時間だって私のほうが絶対に多い。そんなの、お母さんだってわかっているはずなのに。
どうして私は頑張ってないなんて言うの?
お姉ちゃんは友だちが多くて、誰からも好かれてて、誰とでも仲よくなれる。そんなお姉ちゃんが羨ましかった。私だってそんなふうになりたかった。
「できないなんて、言わない、で」
出来るようになるから、そうなりたいと思っているから。
「ピアノ……どうして、私に聞いてくれなかったの……」
ずっと習っていたピアノ。お母さんが唯一ほめてくれたピアノ。
大好きだった。楽しかった。
次第にそれは頑張らなくちゃいけないことになってしまったけれど。昔ほど好きになれなくなってしまったけれど。
私にとって、大切な思い出だった。なくしてしまったものをつなぐ思い出だった。ピアノを続けたかったわけじゃない。ただ、そばに置いて欲しかった。聞いて欲しかった。
「そ、それは……落ち込んでたから……」
しどろもどろに答えるお母さんの声が聞こえたけれど、そんなのもう、どうだってよかった。
逃げ出したかった。ずっと、ずっと、もう頑張ることも辞めたいと思った。だけどやめたくなかった。頑張りたかった。
「応援して、ほし、かった」
頑張って、って言われたかったんだ、私。
疲れたわけじゃない。嫌になったわけじゃない。怒ってるとか、辛いとかじゃない。
——『きみたちはもっと自分の気持ちを自分で理解すべきだ』
疲れたのは、自分の気持ちをごまかし続けていたことに対してだ。
「ずっと、寂しかった……」
心の中にあった、私の本当の気持ち。
それを吐き出した途端、今まで溜め込んでいた感情が爆発してしまったかのように涙になって溢れだして、子どものようにわんわんと声をあげて泣いた。
吐き出すことが、今の私にとって、一番の逃げる方法だった。
自分のこの、蓄積された感情から、逃げたかったんだ。