壱くんはそのまま無言で自転車を走らせた。

 コンビニの横道に入って、さっきよりも狭い、裏道のようなところをずっと走っていく。しばらくして途中の脇道に入ると、さっきよりもずっと細いみちになった。人ふたりが並んで歩けるくらいの距離しかない。

 誰かが目の前から来れば、自転車を止めなきゃいけないくらいだ。

 幸い誰ともすれ違うことなくまた途中で曲がると、草むらと草むらに挟まれた何もない場所になった。家もあまりない。

 よくこんなところを知っているなあと思いつつ、黙って彼についていくだけ。地図も目印もなにもなくただ闇雲に走っているようにも見えて、ちゃんとおばあちゃんの家がある方向をわかってるのかなあと不安になる。

 どんどん道は広くなっていったけれど、地面はどんどん整備されてない場所になって、ガタガタと大きく自転車が揺れる。あんまりスピードを出して走っていると、衝撃で猫が飛んでいきそうなほど、凸凹ばかりの道。気を抜いたらバランスを崩してしまいそうになる。

 どこまで行くんだろう。黒猫もお腹がすいたのか、喉が渇いたのか、さっきから「まだー?」「まだー?」と鳴き続けている。



 それからまだ数分進み続けていると、目の前が行き当たりになっていることがわかった。

 もしかして、やっぱりただ適当に走っていただけなんじゃ。

 そう思ったけれど、突き当りまで行って、すぐに右手に小さな空き地があった。


「ここなら誰も通らねえだろ」


 ひとりごとのように言ってから自転車を空き地の中に止めて、カバンとコンビニ袋を手にして傍にあったベンチのような、ただの倒れた木のような場所に腰掛ける。

 入り口には、三本の、恐らく黄色だったんだろうと思われる錆びた棒があって、奥の方に鉄棒があるのが見えた。ここはかつて公園だったんじゃないだろうか。公園と呼べるような遊具は見当たらないけれど。砂場があったのかな、と思う四角い枠が地面から微かに顔を出していた。

 場所に勝手に入っていいんだろうか。でも、周りには家もなければ人影ももちろんない。誰かに見つかるようなことはなさそうだ。

 猫を先に抱きかかえておろしてから、自分の荷物を手にして近づくと、彼は既に買ったお弁当を広げ始めていた。

 黒猫は彼の隣にひょいっと飛び乗って私の方を見ている。早く、と急かされているみたいに。
 私を待っているわけじゃなくて、ご飯を待っているんだろうけれど。


「はい」


 買ってきたお皿を広げて中に缶を出す。隣の皿には水を注いであげると、なにも言わずに食いついて、私の方をちらりとも見なかった。もちろんお礼だってない。

 食べてくれただけよかった、かな。