「誰ですか?一緒にいた男は」


憎々しげにささやく彼の表情は近すぎて視認できない。


「兄よ!私の兄」


「会った瞬間に抱きしめるのが兄ですか?腰を抱いて歩きますか?」


「見てたの?」


「見たのは偶然ですがね。いい偶然でした」


確かに兄は改札で再会した時に、私を愛おしく抱きしめ、腰を抱いて歩き出した。
私の困惑を完全に無視して。

葦原くんの愛撫は乱暴で彼の怒りが感じられた。
私は焦って答える。


「信じられないかもしれないけど、私の兄。九重修平。鳳証券勤務。調べてくれたって構わない」


「沙都子さんを舐め回すように見ていたあの男が兄?」


「そうよ。そういう人だから苦手なの!食事も本当は断りたかったけど……葦原くんに呼び出してもらって……実は助かったっていうか……」


葦原くんが私から顔を離した。
憎しみの表情ではない。彼にしては珍しく、ポカンと間の抜けた顔だ。

それから、その表情はするするといつもの意地悪な微笑みに変わる。怒りが消えたのが感じられる。