やっと届いた添付資料を基に作業を始めたのが21時過ぎ。
さて、頑張らないと終電には乗れない。

オフィスはひとりまたひとりと人数が減っていく。

葦原くんはまだ残っている。
彼には急な仕事があるから、約束は延期してほしい旨、連絡してある。

だから、できれば早く帰ってほしい。

どんどん人が減るオフィスでふたりきりは避けたい。


「沙都子、ほどほどにね」


未來さんが退社し、総務部長がやってきた。


「九重さん、施錠任せていいかな」


気付けば、オフィスは私だけになっていた。
葦原くんの姿もない。

よかった。私が見ない間に帰ったんだ。

私は施錠を請け負い、テンポよくキーボードを叩きだす。
仕事が終わらない焦りより、葦原くんとふたりきりを避けられた喜びが勝る。
早く終わらせて帰ろう。


「手伝います」


その声は真横から聞こえた。
驚いて右隣を見ると、そこには帰ったと思っていた葦原くんがいて、私のデスクトップを覗き込んでいる。