私が文句を言わないのは面倒だからだ。

そして、この仕事を彼らが放置し、遅れが出れば未來さんに責任が行く。
彼女の不利益を阻止できるなら、私が着手してしまうのが一番効率がいい。

何より、残業なら葦原くんの要請を断る理由になる。

私はひそかにほくそえみながら、キーボードをたたく。


「残業を押し付けられてニコニコしてるなんて、九重さんってマゾ」


佐賀さんがショートカットを揺らし、理解不能と言わんばかりに肩を竦めた。





定時後も多くの社員が残るオフィスで私は自分の仕事を片付け、彼らから押し付けられた格好の仕事にかかった。

問題がある量ではない。
しかし、肝心の添付資料がない。

共有を探し、メールを総ざらいしても見つからない。北原さんと小波くんに電話をしたけれど、案の定出ない。
仕方なく、馬場情報コミュニケーションの以前取引があった担当者に、本件の担当者を探してもらう。

返答をもらうまで一時間ほどかかった。その間に、明日やろうと思っていたデイリーの業務を前倒しでやり、メールをすべて返し終える。