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「九重さん、最近綺麗になった」
そう、声をかけてきたのは佐賀さんだ。
同僚と親しくならない私に話しかけるのは、未來さんと与野、そして隣の席の彼女くらいだ。
「なに言ってるの」
「いや、彼氏でもできたのかなぁって。すごく綺麗。艶っぽい」
私は困惑して言葉にならない。
葦原くんとの関係が頭を駆け巡る。
冗談じゃない。あんな男、ストレスにこそなれ、綺麗になるわけがない。
先週の社内セクハラから、葦原くんにはなるべく近づかないようにしている。社内でこれ以上のことをされてはたまらない。
とはいえ、仕事後の逢瀬は拒絶できていない。何分、こちらは脅されている身なのだ。
佐賀さんは、言葉を重ねて褒めてくる。
「もともと九重さんって綺麗な顔立ちですよね。メイク薄目でも全然映えるっていうか。それに色っぽさが加わって、すんごくヤバイ感じ。いいなぁ。やっぱ彼氏ですよね?いつからですか?」