「だって……」


「俺以外に触らせるの禁止」


私はあなたの所有物じゃない。そう言いたいのに、彼の唇で触れられると、身体が言うことを効かなくなる。


「いや、……本当に嫌い。葦原くん……」


「ほら、煽るなって言ってるでしょう。このまま、ここでヤッてしまいますよ?」


葦原くんが楽しそうに言って、唇での愛撫を続行する。
私はじんわりとうずく感覚に耐え、必死に唇を結び吐息を飲み込んだ。


「続きは今夜」


葦原くんが私を解放してくれたのは、始業時刻の3分前だった。
本当に頭がおかしいのじゃなかろうか。私は彼の腕から飛び出すと、わざわざ階段を使って、階上へと昇って行った。
葦原くんは私の後ろを悠々とついてくるのだけど、私は振り向かず、黙々とオフィスに向かった。

幸いなことがあったとしたら、あのセクハラ部長とそれ以上会話せずに済んだということくらいだ。