葦原くんは私の手をぐいぐいと引き、そのまま男子トイレに入る。
仰天して逃げようとする私を軽く捕え、個室に押し込むではないか。


「何するのよ!ここ男子トイレ!」


「そうですね。だから、静かに」


言うなり、葦原くんが私の右耳に唇を押し付けてきた。

ちゅ、と音をたて、軽く。
次は柔らかく唇で挟まれる。

その行為に、全身が粟立った。


「やっ……めて……」


「消毒してあげますよ。さっき、触られてたのこの辺でしょう?」


葦原くんは私の首筋にも舌を這わせる。
朝の時刻だ。いつ誰がトイレに入ってくるかもわからない。


「お願い、やめて。……会社、いこ?」


「ほら、その顔だ」


唇を首から離し、葦原くんが間近く私を見下ろして言う。


「あんなセクハラ親父に触られて逃げないなんて、どれだけ受け身なんですか。あなたは男を煽ってるって気づいていない」