ふざけているのだろうか。そうに違いない。

一通りやりとりをしたら、お金でも要求されるのだ。
彼のような男が、年上の魅力的とは言い難い女を抱きたがるわけがない。

葦原くんはバカにしたように吹き出した。


「ははっ……、相手がいるいないの問題じゃないですよ。俺は九重さんに興味があるんです」


「私に?」


私はいぶかしく、葦原くんの顔を見つめる。


「はい。……九重さんは俺が嫌いでしょう?」


私は気まずく固まる。
確かに彼が苦手だ。
でも、この嫌悪がバレているとは思わなかった。


「俺、誰かに嫌われるのって初めてなんです」


何、その告白。
嫌われてるから抱きたいってそんな論理ないでしょう。


「わかるんですよ、どうやって笑えば相手が俺を好きになるか。どうやって見つめれば、俺を信用してくれるか。『他人に愛される』たぶん俺の才能なんだと思います。変な話だと思うでしょうがね。この会社でも、俺を嫌だと思う人はいないんじゃないかな、九重さん以外は。俺の唯一で絶対的な武器が、あなたにだけ効かない」