でも、弱みを握られたのは私の方だ。
私は、未來さんのハンカチをそっとデスクに戻す。


「お願い、黙ってて。未來さん……鎌田部長の結婚を私の勝手な横恋慕で壊したくないの」


頼みながら声が震えた。もし、私の好意が妙な噂になれば、事実はなくとも未來さんの結婚に悪い影響が出るかもしれない。
それはすべて、目の前の後輩のさじ加減で決まってくるのだ。


「なるほど。黙っててほしいんですね。いいですよ。でも、せっかくなんで要求をひとつ」


要求という言葉の持つ不穏な響きに私は顔を上げる。

一歩近づいた葦原くんが私の顎をとらえた。上向かせて覗き込んでくる。
流れるような一連の動きに、拒絶する暇もなかった。


「抱かせてください」


「え?」


「セックスさせてください。一回くらい口止め料なら妥当でしょう?」


後輩からの突然の要求に驚いて声が出ない。
正気で言っているのだろうか。