「よくも俺の妹をたぶらかしてくれたな。若造の分際で」


兄が同じくらいの背丈の葦原くんに食って掛かる。
今にも殴りかかりそうだ。

殴られたら、体重が軽い分、葦原くんのダメージは深刻だろう。
なんとしても阻止しようと、私は葦原くんと兄の間に身を滑り込ませた。


「やめて!仕事中なのよ!彼はただの同僚!」


すると、葦原くんが後ろから私をかばうように抱きしめる。


「ただの同僚ですが、ご推察のとおり、沙都子さんとお付き合いさせてもらってます。葦原と言います」


「葦原くん、いいの!私が話すから!」


「いえ、俺が話すと言ったでしょう。お兄さん、沙都子さんの周囲をしつこくうろつくのはやめてもらえますか?」


葦原くんのストレートな要請に、兄が顔をしかめる。
私を抱きしめる格好なのも気に入らない様子だ。


「家族の問題だ。きみにどうこう言われる理由はないな」


多少なりとも言葉に理性が見え始めたのは、葦原くんが至極冷静だったからだろう。対抗措置に、落ち着いた大人を演じる気なのは見え見えだ。