「葦原―、おまえスキスキオーラ出過ぎ」


与野が呆れた声で言って、葦原くんを小突く。葦原くんはその痛くない拳骨を大袈裟に痛がって見せる。


「いいじゃないですかぁ。外出がかぶるのは初なんですよ!」


「デートはプライベートでやれ」


「いやー、俺たちおうちデートばっかりで」


与野がもう一発葦原くんを小突く。


「九重―、おまえもう少しこの無邪気なアホ犬を御したほうがいいぞ。あっという間に妊娠させられるからな」


「にっ……妊娠って」


与野のセクハラにしか取れない言葉に私は真っ赤になってどもった。
葦原くんが子犬の体で私に近寄ってくる。


「沙都子さん、真っ赤。かわいー!与野さん、変なこと言わないでください。俺、めっちゃくちゃ彼女のこと大事にしてますから」


「もう、葦原くん、私行くからね!」


私は恥ずかしすぎてうつむいたまま、立ち上がった。
葦原くんが慌てて、デスクから鞄をとってくる。

ボードに行先と帰社時間を書き込むと、私と葦原くんは奇しくも並んでオフィスを出た。