「だからさ」


「恋人に変な虫が寄ってきて、見てるだけの男なんていないだろ。わかったら、さっさと消えろ」


葦原くんはわずかに本性をのぞかせて、微笑んだ。

彼なら、言葉で言いくるめることも容易いはず。なのに、わざとそれをしなかった。


男性ふたり組が舌打ちをしながら離れて行くと、葦原くんが私の手をつかみ、壁際の椅子から立ち上がらせる。


「行きますよ」


「どこへ?」


「二次会会場じゃないとこ」


私の手を引き、ずんずんと進む葦原くんは会場であるバーを出るとエレベーターホールへ。

ちょうど誰も利用客のないエレベーターの一基に乗り込み、カードキーを見せる。


「荷物全部持ってますか?下の階に部屋とりました」


「え?えーと、荷物は一階のクロークで……、ちょっと待って。部屋?」


「俺も笠井さんたちに追われてて面倒なんですよ。あなたはほっとくといつも通り害虫にたかられてるし。自分で虫も払えないなら、牛の尾以下ですよ」