「僕ら、新郎の敬三さんの部下なんですけど、一緒に飲みませんか」


「あなたの泣き顔、すごくかわいくて、話すチャンスを窺ってたんですよ」


同い年くらいだろうか。そんなことを言われ、私は断りの言葉を探す。情けないことに、知らない人に対してプライベートでしゃべることなんてほとんどない。
緊張して、声が出ない。


「ほら、座ってないで。あっち行きましょ」


ひとりの男性が私の右手首をつかんだ。
急な接触に身が竦む。

すると、その手を私の代わりに振り払った人物がいる。


「すみません、彼女、俺の連れなんですよ」


割り込んできたのは葦原くんだ。
ずっと、私とはつかず離れずの距離にいた彼だけど、しばらくファンの女子につかまっていたようで姿が見えなかった。


「いやいや、僕らもちょっと話そうと思っただけで、きみがしゃしゃる必要ないでしょ」


葦原くんが年下と見るや、強気にも言い返す男性たち。
しかし、葦原くんに口で勝てる人間なんて存在しないんじゃなかろうか。


「人見知りなタチだって、新婦も言ってたでしょ?あんまり強引なことしないでもらえますか?」