「ここのお屋敷は、冬が来ても衣には困らないのでしょうね。なんせ、これだけたくさんの毛虫がいるんですから」


「まあ、うふふ」


「おもしろいこと」



皆の反応がよかったのに気をよくして、左近は得意気に言葉を続ける。



「どんなに寒くっても、毛虫をひっかぶってしまえば、さぞ暖かいことでしょう? 姫さまも、いつも毛虫とご一緒にいらっしゃるのだから、もうお着物などお召しにならくてもよいでしょうに、なんて思いますわ」


「まあっ、いやだわ。なんてことをおっしゃるの、毛虫をかぶるなんて!」


「想像しただけで鳥肌が立っちゃう!」


「いくら虫好きな姫さまとはいえ、さすがにお着物代わりには、ねえ?」



黄色い声をあげて無邪気に騒いでいた若い侍女たちが、次の瞬間、いっせいに顔色を変えて口をつぐんだ。



「ーーーお若い方々。あなたたち、なにを騒いでいるの」



怒りの滲んだ低い声たともに、突然姿を現した古株の侍女の姿に気づいたからだ。


伊勢中将と呼ばれている彼女は、このお屋敷で最も年配の侍女であり、胡蝶の幼いころから面倒を見てきたこともあって、たいそうな『姫さまびいき』なのである。


しかも厳しく口うるさいたちの女なので、若い侍女たちはこれからの展開を予想して暗澹たる気分になった。