『ミカ』という曲は、Dizzinessのデビューアルバムの目玉曲だ。

事務所に「デビューなんだから、流行路線のキャッチーな曲を書け」と言われて、リヒトが嫌々作らされた曲だった。


耳触りのいい、軽めのパンクロック。

聞きやすくて分かりやすいナンバー。


事務所とレコード会社の方針で、その曲ばかりがクローズアップされて、ラジオや、テレビの深夜音楽番組でもヘビーローテーションされた。

ファンがみるみる増えていった。


確かにあの曲は、Dizzinessが世間的に知られるきっかけになったと思う。

メンバーのビジュアルと演奏力のおかげもあって、どちらかというとありふれた曲調なのに、インディーズバンド界では爆発的にヒットした。



でも、リヒトは『ミカ』が流れてくるたびに、苛立ったような顔をしていた。

『あんなのは俺の曲じゃない』と何度も呟いていた。


今日のライブでも、適当にやりすごすだけという感じの、熱のない歌い方をしていた。



「音楽も分からねえくせに、Dizzinessのファンとかほざいてるミーハーな女、俺は大嫌いなんだよ」



リヒトが冷然と告げた言葉に、女の子はさっと顔を歪ませて、バッグをつかんで席を立ってしまった。