Dizzinessを知らない客たちは、圧倒されたように、表情を無くしてステージをぽかんと見つめていた。


それでも、彼らの音楽は、有無を言わさずに客の心を鷲掴みにして、ぐいぐいと引っ張っていく。



そのうちに、ほとんどの客がステージに夢中になりはじめた。


その光景に、私はぞくぞくする。



リヒトがサビでシャウトすると、客の間から歓声があがる。


リヒトがバラードをしっとりと歌い上げると、客たちは目を閉じて聴き惚れる。


リヒトがギターソロを弾くと、数え切れないほどの手がリヒトに向かって差し出される。


まるで、神を崇拝する敬虔な信者たちのように。



とてつもない引力をもったリヒトの声。


そして、それを支える楽器たちの鮮やかで強烈な音色。



美しい音楽の洪水に、客たちが陶酔の表情を浮かべていた。



Dizziness―――眩暈。


やっぱりこのバンド名は彼らにぴったりだ。



私はライブハウスの真ん中で、眩暈を覚えながらリヒトを見つめ続けていた。