洗い物を終えて、部屋に戻る。


楽器とCDとレコードと楽譜が床を埋め尽くす部屋。

その中央に、無心に歌うリヒト。


帰ろうかな、と思う。


リヒトが今晩私を呼んだのは、夕食を用意させるためだけだったのだとしたら、邪魔にならないうちに帰らないといけない。

無駄に居座ったりしたら、リヒトに疎まれる。


しばらくリヒトを見つめていた。

御主人様の命令を待つ犬のように。


でも、リヒトはちらりとも私を見ない。

きっと今夜はこれで用無しなのだと思って、私はバッグとコートを手にとろうと、部屋の隅に足を向けた。



「………なに、帰んの?」



ふいに背中から呼ばれ、私はぱっと振り向いた。

リヒトがベッドの上で、ギターを抱えながら私を見ている。


どう答えるべきか、瞬間、考える。



リヒトが帰って欲しいと思っているのなら、「うん、帰るよ」と返す。

リヒトが帰らなくてもいいと思っているのなら、「ううん、携帯とろうと思っただけ」などと返す。


すぐには答えが出せなくて黙っていると、リヒトが軽く眉をひそめて、


「なんか用事あんの?」


と訊いてきた。


私はふるふると首を横に振る。