「よろしく」



ただそれだけを呟くように言って、ハマさんはすっと振り向いてトーマを見た。


この客に媚びないクールなスタイルも、Dizzinessの魅力だ。


MCで客の機嫌なんかをとらなくてもいい。

自分たちの音楽を心から愛してくれるファンだけが聴いてくれればいい。


そういう、傲慢なほどの自信。


かっこいい。



トーマが頷いて、勢いよくハイハットを叩きはじめた。


次にスネアとバスドラ、そしてハマさんのベースが加わり、うねるようなグルーヴのリズムが生まれる。


安定したリズム隊の音に、リヒトとキイチくんのギターが叫ぶような音色を重ねると、メロディが生まれる。



音楽が生まれる瞬間の恍惚。



リヒトがギターから顔をあげた。


そして、マイクに噛みつくようにして歌いはじめる。



低く甘い声が、激情を放つ。


高音ですこし掠れると、ぞくぞくするほどに魅惑的だ。



こめかみを伝った汗が、髪を濡らす汗が、顎先から髪の先から、透明な雫となって飛び散る。


それすらも、照明の光を拡散させてステージを華やかにする、宝石飾りのようだ。



―――リヒトは、歌うために生まれてきたんだ。


歌うために生きているんだ。


そしてきっと、生きている限りは歌い続けるんだ。



そう思わされずにはいられない、それほどに美しくて強い歌。