ノリのいい明るい音楽が流れていたBGMが、突然雰囲気を変えた。



日本ではあまり知られていないけれど、海外では今でもかなり人気のある、アメリカの古いパンクバンドの曲。

リヒトの選曲だと、すぐに分かった。


何人かの客たちはそれに気がついたのか、会話をやめて顔をあげ、視線をステージに向ける。



次に流れたのは、20年ほど前のイギリスのグラムロックバンドの曲だった。

三枚目のアルバムに入っている、マイナーだけど、コアなファンには人気のある名曲。



きっと、ここにいる観客たちのほとんどが知らない曲ばかり。


でも、一部の人には伝わったらしい。

少しずつ、前のほうに人が集まりはじめる。


その顔には、好奇心がありありと浮かんでいる。


こんな曲をSEで流すバンドは、いったいどんな演奏をするんだろう、と。


一番前の列には、Dizzinessのライブで見たことのある客が何人も集まっていた。


彼らが興奮した様子でDizzinessの魅力について語り合っていて、それを聞いた他の客たちも興味を引かれたようにステージをちらちら見ている。

早く出てこないか、というふうに。


私は自分のことのように嬉しくなる。


そうだ。

今日はDizzinessにとって大きなチャンスだ。


まだこのバンドを知らない人たちにライブを見てもらい、その魅力を知らしめるための。