「リヒト、どうかした?」



訊ねると、リヒトがすっと手を伸ばしてコンロの火を止める。



「………レイラ」



耳許で掠れた声がする。


鼓膜に染み込むような甘い声音に、首筋の肌がぞわりと粟立った。



リヒトの腕が両側から伸びてくる。


着たばかりのセーターの裾から忍び込んできた冷たい指が肌に触れて、私は思わず身を震わせる。



リヒトは私の肩に顔をのせた。


ちらりと視線を向けると、瞳は閉じられていて、長い睫毛が微かに震えていた。



「………リヒト……ごはんはいいの?」


「うるせえ………黙ってろ」



リヒトはいらいらしたように低く言った。


その声にさえ、私はうっとりする。



「そのまま前向いてろ」



リヒトに命じられて、私は黙ってそれに従う。


玄関からの冷気が漏れてくる台所で、ジーンズと下着を脱がされた。


寒さで身体が震える。

それでも、私という下僕はリヒトという君主に従うことしか考えられない。



リヒトは何も言わずに、私の背中に覆い被さるようにして、激情をぶつけるように動く。


私は、蛍光灯の白々しい光に照らされた調理台の上のまな板と包丁をじっと見つめながら、リヒトの気が済むのをひたすら待っていた。