「すみません。気、悪くしました?」



ルイが叱られた子どものような声で言うので、私はちらりと隣を見上げる。


声と同じように情けない表情をしていた。



「ごめん、ごめん。冗談。たしかに私、忘れ物とか多いし」



ルイがほっとしたように頬を緩める。



「よかった。でも、レイラさんって仕事ではミスしないのに」


「そう? ルイが知らないところで色々やってるかもしれないよ」


「でも、ミサトさんが言ってましたよ。ミスがないから安心して業務任せられるって」


「お世辞だよ、お世辞」


「そうかなあ?」



そんな話をしているうちに、駅の明かりが見えてきた。



「ルイは上りの電車だったっけ? もうすぐ来るみたいだよ。私は下りだから、あと10分………」


「………レイラさん」



いきなり言葉を遮られて、改札前の時刻表を見ていた私は顔をあげた。



「ん? なに?」


「あの………」



ルイは唇を噛んで、言葉を探すように視線を泳がせた。



「どうかした?」


「レイラさん、ちょっとだけ、時間いいですか?」



ルイはそう言って、私を手招きして改札脇の柱に近づいていった。