「なになに、バンドやってたってこと?」


「んー、まあ………」



なんとなく恥ずかしくなって、私は顔を背ける。


すると、じっと私のほうを見ているルイと目が合った。



「楽器やってたんですか? あ、もしかしてボーカル?」


「うーん、どうでしょうねえ」



私が首を傾げてあいまいに笑うと、ルイは不満げに唇を少し尖らせた。



「やっぱり! ごまかされると思った。レイラさんって、本当に自分のこと話してくれませんよね」



いじけたように言って、ルイはジョッキに残っていたビールを一気に飲み干した。



「おっ、ルイ、いい飲みっぷりじゃん。すみませーん、生中おかわりお願いしまーす」



ユカが店員に向かって元気よく声をかけている。


その間、ルイはじいっと私を見つめていた。



「………なに? ルイ」



困ってこちらから声をかけると、ルイが「あ、すみません」と慌てたように謝ってきた。



「いや、レイラさんて、すごくミステリアスだなあって考えてたんです」



私はあやうく、口に含みかけた枝豆を落としそうになってしまった。



「ええ? ミステリアス?」



あまりにも自分に似合わない言葉で、戸惑ってしまう。


『ミステリアス』というのは、私にとっては、まさにリヒトのためにあるような言葉だったから。